コウモリたちは椅子の上
2017. 6
タイ王国のソンクラー県で滞在制作。タイの土着文化であるピー信仰(妖怪や幽霊といった存在であるピーを信じる信仰)とコウモリの家族が住み着く部屋で展示することがきっかけで制作された。
1 部屋の中には手洗いされたシーツが干され、その中で電飾が光る。近くにはピーの家と呼ばれる小さなドールハウスのようなものがある。その隣にプラスチックでできた椅子が置かれており、コウモリを模した光が陣取っている。映像に映る子供は木の上の存在に向かってものを投げている。そしてこの部屋の壁には外の壁に重力に逆らうように垂直に生えるガジュマルの根がはっている。私はこれら全てに共通しているものはピー(幽霊)なのではないかと考え、姿の見えないピーを追う作品を制作した。
2 手洗いされたシーツは部屋の中で濡れながら光っている。自分のピーに対する最初のイメージだ。実際に見たことのない姿は布のような変幻自在の柔らかな存在でどんな風にでも姿を変える。彼らは暗闇で光る実体の見えないもの。しかしタイの家にはどの家庭にもピーが怒らないようにミニチュアサイズのピーを招き入れるための家がある。この展示場所にもビルの昔の家主が置いたピーの家があった。しかし私がその中にピーを見ることはない。
3 プラスチックの椅子はタイの人々が休んだり、何かを待つときに道端で使用するのをよく見るものだ。椅子はある時は人の手で、ある時は車の荷台で移動し、どんなところにでも存在して人々を座らせる。人が座る目的を持つ椅子だが、そこに座るの理由はそれぞれの事情がある。私は何かをじっと待つものとしてコウモリを設定し、暗闇になると光りだし存在を主張する存在として椅子の上に引っ掛けた。
4 日本の沖縄にキムジナーというガジュマルの木に住む妖怪がいるという言い伝えがある。その子を呼ぶ遊びとして、暗く静かな場所に丸を描き白い粉をふりかけ、ロウソクを真ん中に立て、目を瞑り呪文を20秒唱えると、そこに足跡が残されるというものだ。私はこの儀式めいた遊びをガジュマルの木の根元の部屋であるここの場所で行った。しかし誰の足跡も確認できなかった。
5 市街を歩いて見ると近くの広場で遊ぶ子供達が目に入る。子供達は木の上に登った子に対してものを投げていた。これはそのような遊びで、上に登った方の子供をピーと呼ぶのだと友達が教えてくれた。子供達の中で遊ばれる遊びの中で、ピーの姿は見えないけれどそれを呼ぶ相手とその遊びの中で見えないものが潜む歪みのようなゆとりが感じられる。
上記それぞれの記録映像を撮影し、部屋の壁に投影し、撮影に使用したものを展示した。
また、この場所は旧日本軍が第二次世界大戦時にこの街を空爆した際に生き残った建物の一つで、この場所でピーを追い求める行為を通して自身が何かの亡霊かのようになった気持ちを感じた。